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函館地方裁判所 昭和38年(ワ)193号 判決 1964年3月18日

主文

被告は原告に対し金一八三、九三三円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、当事者双方の申立

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求めた。

二、原告の主張

(一)  被告は別紙目録記載の為替手形一〇通(以下本件手形という)に引受をし、原告は昭和二八年一二月一五日右手形の受取人((1)の手形については上谷〓次、(2)乃至(10)の手形については北商織物株式会社)から裏書譲渡を受けて、現にその所持人である。

(二)  ところが被告に対する本件手形上の債権はいずれも満期から三年の経過と共に時効によつて消滅した。

(三)  被告は上谷〓次及び北商織物株式会社から繊維製品を買受け、その代金の支払のために本件手形の引受をしたものであるが、本件手形債権の時効消滅により、右売買代金一八三、九三三円の支払を免れ、これに相当する利益を得たから、被告に対し右金員の支払を求める。

(四)  被告の主張(四)の事実は否認する。

三、被告の主張

(一)  原告の主張(一)の事実中、被告が本件手形に引受をしたことは認めるが、その余の事実は知らない。

(二)  同(二)は争う。

(三)  同(三)の事実中本件手形の引受が被告の上谷〓次及び北商織物株式会社に対する売掛代金債務の支払のためであつたことは認めるがその余は争う。

(四)  被告は昭和二八年一〇月一〇日被告の財産整理の際、当時本件手形を所持していた上谷〓次及び北商織物株式会社から右手形金債務及び売掛代金債務の免除を受けた。

(五)  仮に原告が利得償還請求権を有するとしても、おそくとも右請求権全部が発生した昭和三一年一二月一五日から満五年の経過により全部時効によつて消滅した。

四、証拠関係(省略)

理由

(一)  被告が本件手形に引受をしたことは当事者間に争がなく、証人上谷〓次の証言、原告会社代表者山岸利夫の尋問の結果及びこれらによりその裏面につき成立を認め得る甲第一乃至第一〇号証によれば、原告が昭和二八年一二月一五日受取人(別紙目録記載の(1)の手形については上谷〓次、(2)乃至(10)の手形については北商織物株式会社)から裏書譲渡を受けて本件手形の適法な所持人となり、以後引続きその実質的権利を有していたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  被告は昭和二八年一〇月一〇日、当時本件手形を所持していた上谷〓次及び北商織物株式会社から本件手形債権の免除を受けたと主張し、別紙目録記載の(1)乃至(7)の手形については支払拒絶証書作成期間経過後の被裏書人である原告に対して、その善意悪意を問わず、右抗弁を以て対抗し得るものと解すべきところ、乙第二号証、同第四、第五号証及び被告本人尋問の結果中には右主張に符合する部分があるが、これらは成立に争のない乙第三号証及び証人上谷〓次の証言に照して採用できず、反つて右乙第三号証によれば、昭和二八年頃被告が倒産し、その債権者等が集つて一部弁済を受けた際、上谷〓次及び同人を代表者とする北商織物株式会社以外の債権者で残債権(売掛代金債権及びこれを原因とする手形債権)を免除した者があるにすぎないことが認められるから、右被告の主張は理由がない。

(三)  してみると他に特段の主張がない以上、被告に対する本件手形上の債権は各手形の満期から三年の経過と共に時効により消滅したものというべきである。

(四)  ところで本件手形は、被告において上谷〓次及び北商織物株式会社から買受けた繊維製品の代金債務の支払のため引受けたものであることは当事者間に争がなく、証人上谷〓次の証言と弁論の全趣旨によれば、右代金額は当初本件手形金額に相当するものであつたが、前認定の一部弁済により残金は一八三、九三三円となつたことが認められ、右売掛代金債務の免除を受けたとの被告の主張は本件手形債権免除の主張に関する前記判断と同様の理由により認めることができない。そして被告は、上谷〓次及び北商織物株式会社が本件手形を原告に譲渡し、既にその全部について遡及義務を免れたことによつて、被告の右両名に対する売掛代金債務も消滅していたこと明らかであるから、被告は本件手形債権の時効消滅により、前記金一八三、九三三円の利益を得たものといわねばならない。

(五)  そこで被告の時効の抗弁について検討するに、手形法第八五条の償還請求権は手形行為によつて生ずるものでないことは勿論、その他何らかの商行為によつて生ずるものでもないから、その時効期間は民法第一六七条により一〇年と解するのが相当である。もつとも右請求権が実質的には手形債権の変形とみられること及び手形取引の迅速な決済の必要を考慮して、右時効期間を被告主張のように五年とする考え方も有力ではあるけれども、特別の規定がなく且商行為を制限的に列挙している現行法の解釈としては、直ちにこれを採用することはできない。してみると本件各利得償還請求権はいずれも未だ時効期間を経過していないから、右被告の抗弁も理由がない。

(六)  よつて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙)

目録

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